report

つなぐ、醸すデザイナー

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「発酵デザイナー…?」
初めて彼の職業を耳にした人はたぶん誰もがいぶかしがる、そして私も。
発酵をデザイン…?
そんな小倉ヒラクさんへの大きな疑問を持ちつつ、今日の授業は開講です。

会場は上諏訪駅前の商店街の一角「すわまちくらぶ」。
昭和初期の看板建築はかつて店舗でしたが、今は諏訪地域の文化やまちづくりの興味がある人たちの活動拠点となっています。
いつもはシニア層が多いこの会場に20〜30歳代の若者が大勢詰めかけました。

ちょっとしたアクシデントでほんのわずか遅れて到着した小倉さん。
ごく自然に、会場にとけこんで「今日は何の話がいい?聞きたいのに手を挙げて」とやわらかな笑顔で参加者に問いかけました
小倉さんが挙げた3つのテーマは
1)発酵のこと
2)ローカルビジネスやソーシャルデザインのこと
3)クリエイティブデザインのこと
「…じゃあ2番が多いから、今日は2番のことから僕が何をしているかお話ししていきますね」

小倉さんはご自身が手掛けたチョコレートのパッケージの画像を映しました。
山形県鶴岡市の老舗洋菓子店木村屋の「かわらチョコ」
「チョコレートも実は発酵食品なんですよ、カカオの」
“かわら”というのは京都府伏見に起源をもつ鶴岡市の伝統的な土人形のこと。
伏見の土人形が時代を経るごとにだんだん技巧的になるのに対して、鶴岡の土人形は当初のスタイルのまま受け継がれていました
土人形を作る技術は一子相伝とされていましたがだんだんと先細り、やがて昭和中期に作り手のいなくなった土人形は鶴岡で見ることが少なくなりました。
小倉さんはその土人形のいじらしい姿にに魅かれて調べていくうちに、なんと今は使われなくなった土人形の型が、偶然にも木村屋の近所に住んでいた土人形職人の末裔の家から発見されたことが分かったのです。
職人の末裔の手によって、その型を使った土人形が再現されるとほぼ同時期に、偶然にもかわらチョコレートは完成しました。
かわいらしいデザインのパッケージに惹かれたのは若い女性だけではなく、意外なことにまちの高齢の女性たちでした。
懐かしいかたちをデザインしたチョコレートはは彼女たちの関心を呼び、さらに土人形への関心を呼び、職人の末裔のところには幼いころの思い出と共に彼女たちの土人形が持ち込まれました。
「デザインとは文化的遺伝子だとぼくは思うんです」

講義中、二つの映像作品を小倉さんは紹介してくださいました。
・手前みそのうた
 https://www.youtube.com/watch?v=wG-yslfgw6I
・麹のうた
 https://www.youtube.com/watch?v=-PdPCGkaOyM

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覚えやすい歌とメロディとダンスで味噌づくりや麹の働きをイメージができるように構成された作品です。
振り付けも単純カンタン、でもテンポ早くて意外に難しい!
会場のあちこちから軽やかな笑い声がこぼれて、会場は一気に熱を帯び始めます。

私が注目したのは、小倉さんたちはこの作品をクリエイティブ・コモンズの仕組みを使って、誰でもが自由に再利用できるようにしたこと。
「手前みそのうた」と「麹のうた」をこの仕組みをつかって、どこのだれであってもワークショップなどで醸造の過程や菌の働きについて歌いながら踊りながら学べる作品にしました。
共有することで情報が情報を呼んで人を呼ぶ、さらにクリエイティブな新しいアイデアが生まれて加わる、私たちの暮らしはもっと知的に感覚的な豊かさが加わ、うるおいのあるものに変容していく。
きっとこれが「発酵デザイナー」という仕事なのだと、私が小倉さんに対して最初に持っていた疑問がとけはじめてきたことに気が付きました。
このふたつの作品は北杜市の食育プログラムに採用され、さらにグッドデザイン賞受賞。
そして授賞式の壇上でかぶりものを被って歌って踊ったグッドデザイン賞史上初めての作品というストーリーまで作り上げたのでした。

小倉さんは大学を卒業し、ゲストハウスオーナー、サラリーマンデザイナーなどの数々の職業を経験、その間に発酵醸造学を学ばれています。会社から独立後、知人から紹介された秋田の有機栽培のコメを都内の飲食店に卸す仕事を手がけました。
それを機会に仕事が軌道に乗り始め、そして2011年の東日本震災後、発酵とオフグリットの仕事の関係で林業再生のプロジェクトを仲間と始めました。
ところが、ご自身が「どん底だった、と思う年」と言うほどうまくいかず、立ち上げメンバーの一人であるにもかかわらず結局自分が辞めるということを経て、
「うまくやるって長続きしない」
「地味でも小さくてもいいから、納得して長く続けられることを」
と求め続け、悩んで悩んでたどりついたこたえは、
「菌だ!」(会場大笑い)

およそ1時間15分ほどの授業のあと、設けられた質疑タイムには途切れない質問のかずかず。
まちづくりにひつようなこと、アイデアが生まれるときのこと、プロジェクトをうまく進めるにはどうしたらいいのか…
熱を帯びた会場からは、小倉さんの活動への関心の高さがうかがえます。

その中から、実は難しい誰にでもできそうでできない、小倉さんの素晴らしい日々の活動を一つ。

小倉さんのブログ(http://hirakuogura.com/)に感動した受講生から「文章を書くときに気を付けていることはなんですか」との質問に、
「僕はブログを思考のメモとして書いているのです。”どうしたらヒットを打てるんですか”とよく聞かれますが、毎日素振りをしていないとヒットは打てない。いいですかー、僕のブログを読んで感動した人は、僕の素振りを見て”感動した!”って言ってるんですよ」(会場大爆笑)

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より深く複雑に、調和のとれた醸造の過程を彷彿とさせる彼の活動のベースを支えるものはきっと思考と感性を研ぎ澄ますように積み重ねられる”毎日の素振り”なのだなあと、自分の毎日を振り返りつつ共感しました。

(すわ まちの教室スタッフ 降旗香代子)

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小倉ヒラク(発酵デザイナー、アートディレクター)
1983年東京生まれ。生態系や地域産業、教育などの分野のデザインにかかわるうちに、発酵醸造学に激しく傾倒し、アニメ&絵本「てまえみそのうた」の出版。それが縁で日本各地の醸造メーカーと知り合い、味噌や醤油、ビールなど発酵食品のアートディレクションを多く手がけるようになる。自由大学をはじめ、日本全国で発酵醸造の講師も務める。グッドデザイン賞2014を受賞、最新作にアニメ「こうじのうた」。
http://hirakuogura.com/