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素敵な普通

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素敵な普通を探して

藤本さんは「地図を持たない旅人」だ。本作りに関しても台割という地図を持たずに始めるという。台割とは、家の設計図のようなもの。通常は地盤を調べ、どう土台を作り、柱をどう配置し、玄関はここ、居間はここ、水回りは、と間取りを決めてから作り始める(たぶんね)。藤本さんの家作りは、南にこんな素敵な玄関ドアがありました、東にこんなおもしろいキッチンスペースがありました、北にもこんな太い柱がありました、と旅の途中で集めた大好きを組み合わせていく(たぶん)。もしかしたらできたそれはもはや家とは言えないかもしれないけれど、あるセンスに統一された、自然と集いたくなるような建物になっている、という感じ。雑誌の作りと言えば、全体のページ数に対して、広告が何ページこの位置に入って、定番の連載があって、残りのページで第1特集はこういうテーマで何ページ、こことここに取材に行って、こんな要素を入れるから君がこれを担当して、私はこっちを担当し……と台割やレイアウトのイメージを基本に進んでいく。ある意味では、塗り絵の作業に近い。
「みんなこんなことやりたいんやな…できないけど」と藤本さんもおっしゃっていたが、会社や組織で動いている以上、そんな自由なことはおおよそできない。だから、「そんな作り方を怒られないように」と藤本さんは自らが編集長になって『Re:S』という雑誌を立ち上げた。そのコンセプトも「東京で売れない雑誌」。しかも内容がしばられないように広告がない雑誌だ。初めて藤本さんに出会ったのは2年前だったが、その言葉に目からウロコが落ちた。そして「編集こそまごうことなき自分の表現」という金言に、今度はほっぺが落ちた。

東京がスタンダードではない

編集をやりたい人は、○○○のようなかっこいい雑誌を作ってみたいと思うから、東京を目指していく。「○○○のようなかっこいい雑誌」はほぼ東京の出版社から出されている。そんな東京目線で作られた雑誌の情報が日本中を席巻している。だから青葉にも、六厘舎にも、丸信にも行かなきゃいけないんだと思い込む(なんか古い?)。だって、どの雑誌のラーメン特集にも必ず載っているから。そうやって知らないうちにスタンダードが刷り込まれていく。ラーメン王石神さんだって、本当に自分だけが行きたいお店はそんなところでは紹介しないのだよ。
まあ、ラーメンの話はいい。藤本さんは、そういうスタンダードを拒否し、「地方から地方に発信する」ことを選んだのだ。そして地図を持たない旅を、台割を持たない本作りを始めた。行き先を決めずに車を走らせ、偶然の出会いをもとに記事を作った。だからこそ、インターネットでは探せない人や町の魅力が藤本さんの目線で語られている。それこそが、素敵な普通を発見するコツなのだ。
敬愛する花森安治(「暮らしの手帖」初代編集長)の「一国の総理大臣を変えるより、一軒の家庭の味噌汁の味を変えるほうが難しい」という言葉がある。そして「俺、味噌汁の味を変えたいなあ」と思ったのが、藤本さんの編集者としての原点だ。

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奇跡に出会うも才能、奇跡に気づくのも才能

話は変わる。藤本さんが例としては紹介していたのが笑福亭鶴瓶師匠。テレビで、さっき出会ったオモロイおっさんやおばさんの話をしているのを見たことは誰でもあるだろう。そして「ほんとに、そんなに頻繁に面白い人に会う? 作っているでしょう」とつい疑ってしまう。でも、会うんである。たぶんそこには鶴瓶師匠にしかない、面白い人への高い感度、もっと言えば感動があるのだと思う。藤本さんはその「高い感度、もっと言えば感動」の秘密を高校生のころから考え、藤本さんならではの「高い感度、もっと言えば感動」にたどり着いた。だからこそ、地図のない旅であっても、匂いのするほうにやっぱり引き寄せられていく。誰にもできない出会い、奇跡とはそういうことだ。
「雑誌作りをしていると奇跡の連続」と藤本さん。そして、それを見落とさず、奇跡だと素直に感動できる好奇心こそがまた才能でもある。あんなに背の高い藤本さんが威圧感もなく、ひょうひょうと近づき、相手の懐にす〜〜っと飛び込んでいく。相手も苦もなくそれを抱きしめ返す。
私たちは慣れ親しんでしまった「素敵な普通」を、日常のことだからとやりすごしてしまってはいまいか? 人なんて、所詮そういうものなのかもしれない。でも、いま、それを取り戻す必要があるのかもしれない、とは「まちの教室」を通して、幾度も感じたことでもある。「素敵な普通」は憧れの町ではなく、足元にあるの。

地方に編集力を植え付ける

藤本さんは、いま、「のんびり」という秋田県が発行するフリーマガジンの編集長を務めている。もちろん兵庫県に暮らしながら。つまり“よそ者”として、カメラマンやデザイナーらとともに秋田に出向き、地元の若いクリエイターたちとこれを作っている。そこには“よそ者”だから見つけられる発見と、地元の人だからこそ知っていることが入り混じっている。
きっと県としては、秋田の魅力を発信し、秋田へ観光にやってきてくれる人々を掘り起こす目的でフリーペーパーを考えたのだろう。けれど、藤本さんが「のんびり」を通して発信しているのは「秋田からニッポンのビジョンを考える」と秋田のためを飛び越えている。高齢化率・人口減少率が全国1位という秋田からーーけれどそれは長野県であり、これから消滅してしまうと言われている日本の町や村にも通じるーーこれからの指針の一例を示していくためだと考えている。「秋田のメンバーに口を酸っぱくして言っているのは、秋田を盛り上げることちゃうよ。秋田は日本の最先端、僕らはニッポンの未来を見て作っている」(藤本さん)。県としては英断だったかもしれないけれど、全面バックアップもしてくれている。
藤本さんがかつて編集を志したのは、「世の中を変える力があるかもしれへん」という思いからだった。その可能性を実地で確かめながら歩んできたし、これからも進んでいく。
「地方に行くと、編集者という職業がない。地方には編集力、発信力が必要。例えば、編集者として僕は本を作ることが軸ではあるけれど、ほかにもいろんな仕事をしている。デザイン同様、編集も人に対して、町に対してすごく幅広い可能性を持っているんですよね」
秋田で寒天の消費量が全国1だからと生産量全国1の茅野を訪ねたり、秋田の版画家・池田修三の原点は農民美術にあると上田を訪ねたり、すでに長野県も藤本さん、そして「のんびり」に巻き込まれている。
ちょっぴりの毒が混じった柔らかい関西弁の語り口で藤本さんの話を聞いていると、なんだかワクワクしてくる。自分たちでも何かできそうな。「それが、いざやってみるとマネができないもんなんですよ」ニコッと笑う藤本さんの言葉も浮かぶけど。
この原稿を読み直ししながら「普通」と打ったところをすべて違う言葉に変えた。「普通」ってなんかネガティブでいい言葉じゃない気がするからだ。だからこれからは、あえて「素敵な普通」を探す。

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(すわ まちの教室スタッフ 今井浩一)

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藤本智士(編集者)
1985年静岡県伊東市生まれ。
1974年兵庫県生まれ。有限会社りす代表。雑誌『Re:S』編集長を経て、現在、秋田からニッポンのふつうを考えるマガジン『のんびり』の編集長を務める。また、吉本興業発行の『おおらかべ新聞』(大阪)など、編集を軸にローカルデザインを考える事例が話題に。全国でかべ新聞づくりのWSなども開催。編集・原稿執筆・旅のコーディネートなどを担当した『ニッポンの嵐』をはじめ、編集を手がけた書籍多数。著書に『ほんとうのニッポンに出会う旅』(リトルモア)、イラストレーター・福田利之との共著『BabyBook』(コクヨS&T)。編著として池田修三作品集『センチメンタルの青い旗』(ナナロク社)など。写真家・浅田政志との共著となる『アルバムのチカラ』(赤々舎)が発売されたばかり。
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