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上り坂と下り坂どちらが多いと思いますか?

講師の一人、武者先生の問いに対し、私の答えは「上り坂」でした。もちろん、理屈で言えば上り坂と下り坂の数は同じなのですが、小諸市の千曲川沿い、つまり坂の街で一番低いところで生まれ育った私は、どこに行くにもまず坂を登らなければならなかったため、「坂」といえば「上り」という印象が強かったためです。
「今日歩いてみた感想として、上り坂でしたか。下り坂でしたか。」
もう一人の講師、井出先生の問いに対して、「そういえば今日は下ってばっかりだったな」と、そんな感想が出てきました。

今回の授業は坂の街小諸で「『坂』の魅力を考える」がテーマ。講師は信州大学経済学部の武者先生と、長野県建築士会佐久支部の井出先生。お二人は佐久穂町や小諸市で街の魅力発見や魅力づくりの活動をされており、実際のその時の活動の一環として「信州まちなみケーススタディーズ」という本も出版されています。
小諸市出身である授業コーディネータの倉根さんの「小諸といえば坂、坂、坂で子供のころはつらいという印象だったので、坂の魅力をぜひ知りたい」という思いがきっかけからこの授業企画に至ったそうです。

授業では、まず実際に坂を歩いて五感でいろいろ感じてみよう、ということで早速まちあるきに出発。1時間あまりでいろいろな坂道を歩きましたが、これは『坂』ならではだなと私が感じたのは主に三つありました。
1つ目は「石垣」
坂の上に家を建てなければならないため、至る所に石垣がありました。しかもよく見ると、ただ適当に石を積んだようなものから、何となく形が合うように石を選んで作ったようなもの、四角形や六角形に石を加工してきれいに積んであるものなど、その見た目は千差万別です。その数はまるで「石垣コレクション」とかいう写真集でもできるのではないかというくらい。武者先生の説明によると、石垣が作られた時代やその時の土地所有者の経済状況によって差が出てきているとのこと。「石垣」というとお城のイメージが強く、特別なものという印象がありましたが、それがとても当たり前にいたるところにあって街の景色を作っていました。

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2つ目は「アイストップ」
坂道に沿って視線を進めていくと、ぱっと視界が開けてその先に違った景色が見えたり、傾斜が変わったり道が曲がったりして建造物が見えたりというように、視線を動かしていくその先に目に留まるものがあるという情景です。
たとえば、下り坂の先に目を向けると青々とした勇壮な台地が見えたり、緩やかな上り坂の先に目をやると、急に傾斜が変わってお寺の山門が視線に飛び込んできたりするのです。
登り坂は特につらいので下を向いて歩きがちで、「坂を上っている時に何が見えるか」と聞かれれば「坂道が見える」と答えてしまいたくなってしまう私ですが、ちょっと視線を進めれば違ったものが見えるということ気づきました。

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3つ目は「水の音」
今回は中沢川という川の近くを歩いていたせいもありますが、水の音をよく耳にしました。あいかもその音は一定ではなく、時には滝のように激しく水が落ちる音、時には静かだけれどもしっかりと染み渡るようなせせらぎの音。これも傾斜が一定でない坂だらけだからこそ作り出せるものです。普段は車で移動することが多いため音にはあまり気づきませんが、歩いてみるとこんなにも水の音がするのだなと感じました。

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他にも、ここでは紹介できないくらい、「市道とは思えない細いくだり道」「橋のある風景」「歴史を感じさせる法面」などいろいろと面白いお話と発見がありました。

歩いた後は、町屋を改装したパブリックスペースである「ほんまち町屋館」でディスカッション。そこで最初に講師の先生方から聞かれた質問が冒頭の部分です。
坂は上りできついものと思い込んでいましたが、その思い込みをちょっと脇に置いて歩いてみると、川のせせらぎを生み出すもの、そして心が落ち着く風景をつくっていたものだと気づきなんか意外といいヤツなのだなと。たぶん、上り坂が大変なのは同じなのでしょうが、今日はそれを意識しないくらいの発見があったから「つらい登り坂」の印象が薄く、「下り坂が多かった」と感じたのかもしれません。

一緒にまち歩きをした参加者の方は「他の方と一緒に実際歩いてみたから、新しい魅力に気づけた」という感想や、お子さまと一緒に参加していた方は「子どもは自分たちと全く違うところに気がついていたみたいだった。大人の目線と子どもの目線の違いもいいのではないか」という感想が印象的でした。

長野県はどのまちにも坂が多く車社会とは言われていますが、時には車を降りて家族と、恋人と、友達と坂を歩いてみて、みなさんも「坂」の魅力をさがしてみてはいかがでしょうか?

(信州イノベーションプロジェクトSHIP 柳沢裕二)

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武者忠彦(信州大学経済学部 准教授)
1975年長野県佐久市生まれ。東京大学理学部卒業。メーカー勤務を経て、東京大学総合文化研究科博士課程修了。2008年より現職。専攻は都市地理学、都市政策論。著書に「信州まちなみスタディーズ<佐久穂><小諸>」等。

井出正臣(井出建設興業株式会社 代表取締役社長)
1974年長野県佐久穂町(旧佐久町)生まれ。工学院大学建築学部卒業後、家業を継ぐため佐久穂町へ。武者講師とともに「信州まちなみスタディーズ」を出版した他、平成26年に県が主催した「信州元気づくり実践塾」の塾頭を務めるなど、地域づくりのキーマンとなっている。