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ケンチクの初期設定のデザインとその仕組みを考える

今回の授業は、「誰のためのケンチク? オルタナティブスペース×都市デザイン」と題し、建築家の野田恒雄さんをお呼びしました。

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野田さんは、日々の挑戦を旅のように楽しむ人をTRAVELERと名付け、その人たちのための場づくりを行う事業「TRAVELERS PROJECT」を手がけています。

これは、福岡市内にある空きビルを改修し、TRAVELERに住み込んでもらうことで起こる様々な楽しさを見出すというプロジェクトです。
「リノベーション」という手法を用いた場づくりで、昔の建物の雰囲気を残しつつ、そのときの用途とは別の使い方をすることもできる上、新築にはない風景、良さがあるということで、近年ここ長野でも増えてきています。
そのTRAVELERS PROJECTの1つ「紺屋2023」。2008年から始まり、現在進行中です。
「未来の雑居ビル」をテーマに、業種も年齢も国籍も違う人たちが雑居するという、今までにない新しい形を作っています。

そんな野田さんは、今年4月、横浜市の行政職員としても勤務し始めました。そこにはどんな意図があるのか?なぜ横浜なのか?一見あまり関係のなさそうなこの2つの職業の関係について、じっくりお話を伺いました。

塩尻では今ある建築をどんな風に活かしているんだろう?
ということで、まずは授業コーディネーターの石井健郎さんの案内で、塩尻市大門商店街をぶらり。

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この大門商店街の、今ある建築を活かした例のひとつにnanodaがあります。
商店街の活性化に取り組む塩尻市職員の山田崇さんを中心に、一緒にワインを飲んだり、お誕生日会をしたりと、人や地域をつなぐ企画を展開しています。
石井さんも、このnanodaの一員。中まで案内してくださり、昔の建物の雰囲気を残しつつ、アットホームな雰囲気漂う空間がとても心地よかったです。
はじめてここに来る人も、入りやすいのではないでしょうか。

まちあるきから帰ってきたあとは、野田さんの今手がけている事業のお話を聞き、今ある建築の活かし方について考えました。
その中でお話された、野田さんが手がけたTRAVELERS PROJECTの秘密に、私は終始興奮状態でした(笑)

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その中で、ひとつは初期設定のデザインの仕方。

空きビルを改修する段階で野田さんは、初期設定のデザインが大切だと言います。
TRAVELERたちが住み込んだときに、別の職種のTRAVELER同士が化学反応する可能性が溢れるようにする。この感覚を、原っぱをつくるとして例えられていました。
その原っぱが、何にもないただの原っぱだったら、そこに集まったメンバーにかなりゆだねられてしまいます。一方、そこにディズニーランドみたいに遊び方がかっちり決まっている遊具があったら、誰でもみんな楽しく遊べます。けど、全部予想できるからつまらない。
じゃあ、そこに土管がひとつあったとしたらどうでしょう?
その土管があるおかげで、原っぱで遊ぶ選択肢が増えます。でも、1通りの遊び方ではなく、自分でその土管を使ってどう遊ぶか、土管ひとつで何ができるか、という自由さが生まれるのです。だから、そこに土管があるかないかはとても重要なんです。
なにが起こるかわからないけど、少し予想がつくギリギリのところをつくるという感覚。これを知れたことは、とても大きな収穫でした。
自分が作った場で、自分が考えてもないようなことをやりだす人がいるなんて、未知との遭遇みたいで楽しいし、わくわくしますよね!

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そして、この建物の使い倒し方、仕組みについて。

TRAVELERS PROJECTの企画「冷泉荘」と「紺屋2023」。このプロジェクトの共通点は、期間を設けるということにあります。
スパンは3年(紺屋2023は3年スパン×5で15年)。その期間は1週間から3年まで、自分の好きな滞在期間を自由に選ぶことができるんです。
その期間で、TRAVELERたちは製作をしたり、企画をしたり、展示をしたり…。
(ちなみに、製作されたものは建物の一部として今も残っているとのこと!)
その滞在を1つの波とするなら、TRAVELERの数だけ波が生まれます。
その波同士が合わさって、複合波になっていくことこそ、ここに住み込む大きな利点ではないでしょうか。
たとえば、企画する人が、製作している人の作品を気に入って、企画展にしてしまう…。たとえば、同じ時期に製作をしている人たち共同で作品をつくってみる…。
想像したらキリがないし、自分でも考え付かないようなこともきっと起こります。
ここは、そういう可能性に溢れた夢のような場所なんです!
この仕組みのおかげで、運営する側も住み込む側もマンネリ知らずの、刺激的な15年になっているのです。

このように使っていくことで、TRAVELERたちの仲間意識がつくられていきます。
それも、このような複合波が起こる仕組みから生まれるものなんでしょうね。

ちなみに、そこで出た紺屋2023のお話でも、その仲間意識に溢れていました。
紺屋には、ここを使う人用の駐輪場があるのですが、外部の人に勝手に止められてしまって困っていたんだそうです。
そこで、TRAVELERたちが動き出しました。
お寺の娘さんだった作家さんが、作品として結界を作ったのです!
TRAVELERたちの中でルールを決めて、駐輪場としては使い続けました。
すると、なんと!勝手に止めていた人は止めなくなっていったんだとか!
実際、結界とか張ってあったら怖くて自転車とめられないですよね。笑

バリバリのバリケードを敷かなくても、TRAVELERたちで話し合えば、こんな風に解決できるのです。
とても楽しい仕組みですよね!しかも作品も置けて一石二鳥。この紺屋ならではの、遊び心に溢れたエピソードでした。

そして最後にお話してくれたのが、野田さんが4月から勤務し始めた、横浜市役所のこと。
行政として成功している都市、横浜。
そこで野田さんが学んだことは、大きな都市計画の構造のことではなく、意外なこと。
個々の暮らしを豊かにすることは、都市を豊かにする。
都市を豊かにすることは、個々の暮らしを豊かにする。ということ。
つまり、個々の暮らしの大切さです。

「まちっていうのは、そこに住んで、その人たちの意識の集合でできています。
そのまちの良さを維持するという意識を持ちつづけることが、その良さを歴史・文化へ変化させることにつながります。」
そう仰った野田さんのヒューマンスケールな視点は、楽しくて新しい都市計画を生み出しました。

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そのことをまとめた野田さんの「都市デザインビジョン」には、ここに住む人たちが自ら考え、書き込める仕組みとして、スケッチスペースを挟んでいます。
あなたは、横浜がどんな都市になってほしいですか?という問いかけです。
ちなみに、この次のページには、行政が考えた都市デザインのビジョンが描かれています。
自分でビジョンを描いた後に、行政のビジョンを見たら、きっと考えざるを得ません。

横浜市役所への勤務は、そこに住む・個々の意識という最小単位の大切さを教えてくれました。

野田さんは、環境がちがえば全然違うものができます。だから、こうやってお話をしているんです、と仰っていました。
このプロジェクトが日本に、あるいは世界に広まったら…。きっと各地の個性溢れる、素敵な場所になります。
自分の住んでる場所にTRAVELERS PROJECTがあったら、どんな複合波が生まれるんでしょう?考えるだけでわくわくしてきますね!
これからのTRAVELERS PROJECTが楽しみです!

(まちの教室スタッフ 岩間夏希)

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野田恒雄(建築家) 
1981京都生まれ、滋賀育ち。横浜市都市デザイン室 都市デザイン専門職(兼職) no.d+a(number of design and architecture)代表/建築家TRAVELERS PROJECT事務局 TRAVEL FRONT主宰 東京都立大学(現首都大学東京)工学部建築学科小泉雅生研究室卒業、(株)青木茂建築工房を経て2005 no.d+a設立、2014から現職。